部屋に入るなり、いつものように俺を出迎えに玄関先までやって来たショコラを見て彼女は靴も脱がないままその場にしゃがみ込んだ。
「わぁ!ショコラちゃん?はじめましてー」
頭を撫でようと彼女が手を伸ばすと、ショコラは「ワン!」と吠えた。
「こら。ショコラ」
「そうだよね、知らない人だもんね。ごめんね」
「彩乃ちゃん、ごめんね。すぐ慣れると思うけど」
「いえ、全然」
突然の訪問者に警戒心剥き出しのショコラを片脇に抱きかかえながら、俺は先に部屋に入る。
ソファに脱ぎ捨ててあった服を洗濯機に、ペットボトルはゴミ箱に放り込む。
「お邪魔します」
「どうぞ。あ、そこ座りなよ」
「ありがとうございます」
示したソファの右端に、彼女はおずおずと腰かける。
俺はショコラをひとまずケージに入れてやると、テレビの電源を入れた。
「コーヒーでいいかな。つっても、缶コーヒーしかないんだけど」
「あ、全然大丈夫です。ありがとうございます」
三人掛けのソファの、真ん中を少し空けて左端に腰を降ろす。
「アップルパイって、それ?」
彼女がテーブルに置いた、薄いピンク色の紙袋を指差して訊いた。
「あ、はい。そうです。すごく美味しいので。うちのお店のなんですけど、今日余っちゃってて。あ、余っちゃったって言ってもたまたまで、その、人気がないからとかじゃなくて」
「大丈夫。誰もそんなふうに思ってないって」
いつになく饒舌な彼女の様子から、俺は彼女の緊張を読み取った。
ここで、「で、話って?」なんて単刀直入に聞き出せる空気ではなかったので、まずはアップルパイに集中することにした。
