改札から出て本当にすぐのところに、彼女はいた。
「彩乃ちゃん」
俺が呼ぶと、握り締めた携帯から顔を上げる。
「あ…なんか、すみません。突然…迎えに来させちゃって…」
「いや、大丈夫だよ。行こうか」
「…はい」
待てよ、と、俺は歩きながら考える。
行こうか、と言ったはいいものの、どこへ行くべきか。
俺の家の最寄駅であって、それを知っていて彼女もこうして足を運んでいるわけで、しかも名目としては「アップルパイを食べる」なんだから、俺の家に行くのが1番自然な流れではある。
けれど、いきなり当たり前のように部屋に案内してもいいものか。
そこまで考えてしまうほうが逆にいやらしくなる気がするけど、どうしたって考えてしまう。
「…俺の家…で、いいの?」
「…はい。いいですか?」
横に並んで歩く彼女が、上目遣いで俺を見る。
…やっぱり可愛いよな。
「俺は全然いいんだけど。あ、散らかってるけど、ごめんね」
「こちらこそ、何から何まですみません」
部屋を出て来る前の状態を頭の中に思い描く。
ちょうど昨日、掃除機をかけておいてよかった。
服がソファに置きっぱなしなのと、テーブルには空のペットボトルがそのままになっていた気がするけど、それ以外はだいたい片付いていた筈だ。
「あ」
「はい?」
「彩乃ちゃん、犬は平気?」
「え、犬がいるんですか?」
「うん。苦手だったりしない?」
「全然!むしろ、大好きです!」
慌てたりしない限りはいつも割と淡々としたトーンで話す彼女の声が珍しく弾んでいる。
本当に犬が好きなんだろう。
