江ノ島での、彼女の頑なな態度が思い出される。
だけど、それが拒絶ではないことくらい、俺にだってわかっている。
2人きりで会うことを、あの後にだって受け入れてくれた。
一緒に映画を観たあのときだって、俺は感じていた。
少しずつ、だけど確実に、俺の前で笑うことが増えてきていること。
俺だって、彼女と出会う前にいくつかの恋愛も経験してきた。
それでも全然女心なんてのはわからないけど、だけど、自分の目の前にいる女の笑顔が作り笑いかそうでないかくらいは、見抜けるようになったつもりだ。

「今、駅なんでしょ?」
「…はい」
「じゃあ、迎えに行くよ。10分くらいで行けるから、改札出たとこにいて」
「わかりました」

そう答えた彼女の声には、安堵の色が見えた。


電話を切り、店内に戻ると翔太は煙草を吸いながら、携帯をいじっていた。

「悪い翔太、俺ちょっと急用」
「椎名彩乃か」
「まぁな」
「ふーん。わかった。じゃあまたな」
「お前、どうする?」
「んー、もうちょい飲みてぇし、適当に誰か探してみるわ。誰かしらつかまんだろ」
「そっか。悪いな。また連絡するわ」

財布から5000円札を1枚抜き取り、テーブルに置くと、早足で店を出る。
俺はたいして飲んでいないが、翔太へのお詫びのつもりで少し多めに出すことにした。
また近々会ってちゃんと話そう。
こういう場面でしつこく聞き出してきたりしないのが、男同士の楽なところだ。