『今日も、1人か?』
先生の声のトーンが少し下がる。
先生の心配そうな顔が、目に浮かぶ。
電話で顔が見えなくても、先生の声で先生の表情が分かる。
ううん、きっと声がなくても分かるよ。
これってすごいことだよね。
「うん。でも、もうすぐお母さん帰って来ると思う」
先生に迷惑をかけたくない一心で、私はまた嘘をついた。
本当は、いつ帰って来るかなんて分からない。
寂しくて仕方なかった。
『そうなの?まぁ、俺のこと父親代わりだと思って、これから夜は俺に電話して来ていいから。桜は寂しがり屋だもんなぁ……。』
先生が、私のことをこんなに理解してくれているなんて知らなかった。
嬉しさが溢れる一方で、もう一人の私が私を止める。
「うん、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、先生だって忙しいし、家のことまで迷惑かける訳にはいかないから……。」
『お前、本当にバカだなぁ。んなこと気にすんなよ。素直にお礼言っときゃいいの!俺いっつもヒマだから、桜がかけねぇんなら俺からかける!』
先生、どうしてそこまでしてくれるの?
私じゃなくて、他の子でも先生はこんな風に優しくするの?
「ありがとう……」
『それでよし!じゃ、運転中だから切るな!また明日!』
ここで初めて、先生が運転中だったことを知った。
それなのに、私に電話をしてくれた先生。
本当に迷惑かけっ放し。
きっと、これからもかけてしまうだろう。
まだまだ子供な私。
でも、先生は『気にすんな』って言ってくれた。
もう大丈夫。
もう私、寂しくないよ。