「桜、歩けるか?」



先生は、すぐに戻ってきてくれた。


私は頷いて、歩き出す。

先生に手を引かれながら……。



いつも見ていた先生の車に乗る。

車内の後部座席には、チャイルドシートや子供用の物がたくさんあった。


先生は、かかっていた音楽のボリュームを落とした。



「何があったか聞く前に、お母さんに電話しとけ。きっと心配してる」

「ううん。お母さん、仕事でいつも遅いから、家にいないんだ……」



私の家は母子家庭で、お父さんがいない。

お母さんは、私のために毎日遅くまで働いている。



「そうか……」



先生は前を見て運転しながら、大きな手で私の頭を優しく撫でた。



「先生疲れてるのに、迷惑ばっかりかけてごめんね……」



そう言うと、先生は私を見て優しく笑った。



「そんなこと気にすんな!迷惑かけない生徒なんて、かわいくないから!」



先生は、近くのコンビニに車を止めた。

コンビニからもれる光が、車内に差し込む。



「で、何があった?」


「色々ありすぎて、何から話せばいいのか分かんない……」


「ゆっくり話せばいい。うまく話せなくてもいいから、俺に全部話してみ?」



シートを少し倒してもたれる先生に、私は全てを話した。


先生は保健室で初めて話した時のように、優しく相槌を打ちながら、話を聞いてくれた。


こらえきれなくなって私が泣き出すと、先生は片手で私の涙をそっと拭ってくれた。

ポロポロと流れる涙の一粒一粒を受け止めてくれた。