先生は真顔になって立ち上がり、私を抱きしめた。
「本当に…どうした?俺に言ってみ?美紀のことなら、気にすんな。俺が愛してるのは、桜だけだから…。」
『美紀』とは、先生の別れた奥さんのこと。
私だけを愛していると言ってくれた先生。
こんなに嬉しい言葉をもらえた私は、幸せ者だよ。
これで一生分を生きていくから…。
「他の人を不幸にしてまで、幸せになれない。先生、お願い。美紀さんと子供さんのところに戻って、幸せになって…。」
私はそう言って、私を抱きしめる先生を突き飛ばして、家を飛び出した。
私には、もう何もない。
先生が全てだった。
生きていくことが、急に怖くなった。
涙を流しながら、暗い道を走って、走って、走り続けた。
なのに、先生は全力で私を追いかけてきてくれたんだ。
どこまでも、どこまでも。
スポーツ万能で、足が速い先生に敵うわけがない。
私はあっという間に追いつかれ、再び先生に抱きしめられた。