「行くよ、桜」


くるみが私の手を引いた。

今度は優しく。


私は、また泣いた。



頭にやきついて離れない、あの光景。


私の頭を撫でたときと、まったく同じように子供の頭を撫でていた先生。

生まれたばかりの可愛らしい赤ちゃん。


そして、あの綺麗な女の人。

あれが…奥さん。

先生の奥さん。


先生が女として見た人。

先生の最愛の人。


先生を支えてるって感じだった。


先生の奥さんにも、彼女にもなれない私。

ただ、想うことしかできない。

想うことさえ、もうできないのかもしれない。



もう…見たくない。

私は目をつぶった。



私の気持ちは、卒業式からまったく変わっていないことに気付いた。

いくら頑張っても、この気持ちは消せない。



私が泣いてるとき、いつも頭を撫でて、『また桜は~!どした?』って言ってくれた先生。

でも、もう気付いてくれないね。



私の上には星空。

でも、今は涙でよく見えない。

先生と見た星空と同じ星空なんて、とても思えない。



今の私には、先生しか見えない。

先生しか好きになれない。


こんなの、辛すぎる。