それは、幼稚園教諭の二次試験が行われる一週間前のこと。



「お疲れ〜。あれ?何処行くの?」

この日の講義が終わり、一緒に帰ろうと声をかけた沙耶は、私が校門ではなく離れの校舎へと向かおうとしていたのが不思議だったんだろう。


「ん?居残りピアノ」

「あぁ〜」

納得と言わんばかりに返事をした沙耶に、代わってって言いたくなる。


ピアノは苦手。

幼稚園の先生になりたいと思ってから始めたピアノは高校生になってから。

きっと、他の子よりもずっと遅い。


それまで弾くことは好きだったから、なんとかなるって思ってたけど、ピアノって奥深い。

自己流で適当に弾いていたので、指使いの難しさに先ず戸惑う。

本当なら中指で弾くところが薬指になったり、そこが上手く行かないからスムーズに弾けなくて、何度も何度も突っかかる。


ピアノ科の先生も厳しくて、もう必死。