そう。

何事もない。


彼と私の関係は、サッカー選手とそのファン。
彼にとっては、私は、一ファンにすぎないんだろう。


名前を聞いたところで覚えてなんてない。思い出すことすらない。
そんな存在なんだ。

もう四年も前のこと。忘れてしまっていて、当たり前。






「帰ろっか」

「いいのか?」

「うん、もう、いい」


もう、充分。
ちゃんと伝えたいこと伝えたから。

これからもサッカーを頑張ってほしいだけだから。







私がクラブハウスの敷地を出た後、

「前、田……?」

そう呟いて、キョロキョロとファンの人だかりの中を探すような仕草を彼がしていたことを、私は、知らない――…