コンパス〜いつもそばで〜


「3時間って、凄いね」

「だろ?」

そう言って笑う宮下くんは、大変だとは感じさせないくらいあっけらかんとしてる。


「電車の中で何してるの?勉強とか?」

「ん?読書」

「へぇ」

確かに本を読んでいたら時間なんてあっという間に過ぎてそうだ。


「ほらっ!」

そう言ってエナメルバックを開けて中から取り出したのは、漫画本

「漫画?」

私はてっきり分厚い文学書でも入ってるのかと思ったよ。

「あ、今、バカにしただろ」

「そんなことないよ」

「この主人公のさ、ハヤミって奴がすげーの。ドリブルが凄く早くて、スピード選手。あっ、一冊貸してやるよ」

「え?」

「それ、俺のお薦めの一冊だから。あっ、行かなきゃ。じゃ、また明日」

「え?あっ、うん」


腕時計を見て慌てて改札へと向かう宮下くん。

「じゃ、」

振り向いて、手を軽く挙げそう言って階段を駆けていく彼に、

「頑張ってね!」

かけた声は、届きましたか?