『ピーッ!』
審判のホイッスルで試合は始まった。
梶野くんが言ったように、宮下くんはベンチからのスタート。
彼がピッチに立つことはあるんだろうか。
今、どんな気持ちで目の前の試合を見ているんだろう。
「何、難しい顔してんの」
「え?」
梶野くんが苦笑いを浮かべてそう聞いてくる。
「宮下なら、絶対に後半には出てくるって。まあ、心配せずに観てなって」
それに、そんな顔して観ていたら、勝てる試合も勝てなくなるよ。もっと肩の力抜いて楽しめよ。
そう言われてハッとした。
あの頃、宮下くんに言われた言葉と同じ。
球技大会の日に、少しだけ違和感あるって言ってた足で出場した宮下くんに言われたの。
『そんな顔すんな。大丈夫だからさ、まぁ、観ててよ。前田がそんな顔してたら、勝てるもんも勝てなくなるだろ?ほら、笑えって』
そう言って、私の頬っぺたを両手で横に引っ張って、
『変な顔〜』
って笑ったんだ。
『痛いなぁ、もぅ!』
って怒ったら、今度は自分の頬っぺを両手でくの字に挟んだ。
その顔がなんとも言えず滑稽で、声を挙げて笑ったら、
『その顔。その顔で観てて』
って言われたんだ。
そうだね。難しいこと抜きにして、今は、楽しもう。
せっかくのプロの試合。楽しまなきゃ、勝てるもんも勝てないよね。


