「カナ。」
さっきまで歌声を奏でていた美声は、
前回同様いつの間にか止まっていて。
今度は私の名前を発していた。
………終わってた。
また、気付かなかったな。
「カナ。今日は泣かないのな。」
頬に触れた葉月君の手には
前回のように雫は乗っていなかった。
良かった。
今回は泣かなかったみたい。
「………良かったよ。」
目の前に立っている葉月君は
目を見開いた。
切れ長の目が大きくなった。
………何で、驚いているの?
「……カナ。今、何て?」
「え……あ。」
「良かったよ。」私はそう言った。
……………何で?
私は、
"彼女"以外の音楽を耳に入れたの?
私は、
"彼女"以外の音楽を受け入れたの?
私は…
"彼女"以外の音楽を認めてしまったの?
「………っ…。」
やだ。やだ。
自分がとてつもなく最低に感じる。
「…………カナ?」
葉月君は私を見ては、その名を呼ぶ。
葉月君の瞳は、"彼女"を思い起こさせる
独特な光が宿っていた。
「………あ……。」
『あのね…守って…欲しい…の…。』
ごめん。
『Divaを…忘れないで欲しいの…。
あたし達が…輝い…た、証…。』
ごめん。ごめん…鈴。
私は、最低だ。


