「………葉月君。」

私は私の腕を引っ張りながら前を歩く

葉月君の大きな背中に呼び掛けた。


「………なに。」

素っ気なく返事を返す葉月君。


「………ううん、何でもない。」

今、私は。

何を聞こうとしたんだろう。


「そ。」

聞くのを辞めたのは…

私にとっての禁句だから?


止まっている私の時間。

いや、私が止めている私の時間。

それを揺らがせるモノだと思ったから?


………はぁ。自分の事なのに。

全然分かんない。


「完成した曲聴いてくれるだけで

良いから。」

……葉月君は、

何故そんなことを言える?


女子高生モニターなんでしょう?

感想くらい聞かないと無意味な存在だ。

でも、私は決して

他の音楽には興味を持たない。

感想なんて言うわけが無い。


……葉月君はその事を

分かっているかのように

私に音楽関係の事を全然求めない。


ただ1つ。

「聴いて欲しい。」それだけを求める。


ねぇ、葉月君さ。

一体何がしたいの?何が目的なの?

私に、何をして欲しいの?


私はね、音楽には触れたくないの。

薄々それは感じているでしょう?

なのにどうして

私と関わりを切らないの。

どうして

私に自分達の曲を聴かせたいの。


そして…何で私はこの葉月君の願いを

断ることが出来ないの。


葉月君の大きな背中が目に映る。

風になびいて、

少しシトラスの香りがする。


どこからどう見ても、葉月君だ。

"彼女"とは、全然似てない。


けど不思議。

葉月君と一緒に居るとき。

それは、"彼女"と共に過ごした時間と

凄く似た感覚を覚えるんだ。


何をされるのか分からないのに、

絶対的な安心感が有るから。

貴女もそうだったよね。


ねぇ、もう1度会いたいよ…。

もう1度顔を見たいよ…。


………………………鈴。