そう言うと、彼女は自分の後ろに控えている人物に視線を送った。

「輔子…!!」

「重衡様…!?」

客人とは、輔子のことだった。

「何故貴女がここに…!?」

急いで妻に駆け寄る。

「あ、あの…えと…」

言い淀む輔子を、重衡は本能のまま抱きしめた。

「いけない方だ…。忍んで兄上に会いに来るなど」

「わ、私は、そんな…!」

(ひゃああ!!知盛様と雅子様の前で…!!!!)

顔を真っ赤にさせて懸命に手足をばたつかせるが、なんら意味をなさない。


「貴女は…蝶のような方ですね。私が少し手を開いた瞬間、あっさりと飛び去ってしまう」

重衡は耳元で囁いた。

「私は心配でなりませぬ。飛び去った貴女が蜘蛛の巣にかかり、食べられてしまうのではないかと…」