「怒るな。佐殿だって真剣だった。そなたが通わないのは自分に飽きてしまったからではと…嘆いておられたぞ」
知盛が語る妻の心に、重衡はうなだれた。
「…昨夜、輔子に言われました。貴方は私を愛してなどいないと…。ですが、決してそのようなこと…!飽きるだなんて、とんでもない!!飽きるどころか、のめり込んでしまいそうになるのを必死で抑えているのに…!」
「そのような大切なことは、直に本人にお伝え下さいな」
凛とした女性の声が響いた。
彼らが振り向くと、そこには知盛の妻、治部卿局(ジブキョウノツボネ)が立っていた。
「雅子…いつからそこに」
夫の溜息まじりの声に治部卿局は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「ほんの少し前です。それよりも、お客人が参られていますよ」



