〈過去②〉


 宵闇に浮かぶ月を眺めながら、輔子は長い溜息を吐き出した。

「重衡様…」

ここにいない夫の名前を小さく呟く。

輔子には一つ、悩み事があった。


(今宵も来ては下さらないのでしょうか…?)


そう、それは夫である重衡の夜の通いがないこと。

結婚してすぐは毎日のように通ってきてくれた夫が、なぜかパタリと来なくなった。

(まだ一緒になって一年も経っていないのに…)

もう飽きられてしまったのだろうか…?

そう考えると、泣けてくる。

輔子はざわつく胸を気にしない振りをしながら、独り夜を過ごしたのだった。