〈過去⑤〉


 うっすらと雲に覆われ、ぼんやりと淡く光る下弦の月が目に優しい。


(あの夜も、下弦の月でしたね…)


輔子はその月をよく見ようと、御簾(ミス)を押し上げた。


(あの欠けた月は、まるで私の心のよう…)


京に連行されてから、早一年と半年。

輔子は日野にある自分の姉が住む屋敷に身を寄せていた。


独り、夜空を見上げながら思い出すのは、愛しい夫のことばかり。


(貴方様は捕らえられたと耳にしました。生きていらっしゃるのならば、どうかもう一度…もう一度だけ…輔子のもとへお帰り下さい…)

命さえあれば、また会えるかもしれない。

生きている限り、希望は捨てない。



――たとえそれが、どんなに儚い希望だとしても…



再び会えることを願って、彼女は静かにまぶたを閉じた。