〈過去④〉


 平家の運命が暗雲に飲み込まれ始めたのは、清盛の死からだった。

熱病にうなされ、苦しみもがいてこの世を去った平家の棟梁に、涙を流す者もあれば、当然の報いだと言う者もあった。



重衡は父親の死を他の兄弟、親族と共に嘆き悲しんだ。

輔子も喪に服し、夫と同様にその死を悼(イタ)んだ。



しかし、さらに悲しい知らせが輔子に届いた。

「え!?父上が!?」

「はい。突然お倒れになられて…そのまま…」

清盛の後を追うかのように、輔子の父、邦綱も他界。

「そんな…父上…」


悲しみの涙が乾く間もなく、最悪の事態は訪れる。

妻と夫、両方の父が亡くなるという憐れな状況に追い打ちをかけるかのように、源氏勢である木曾義仲(キソノヨシナカ)がすぐにでも京へ攻め上ってくるという噂が流れたのだ。