「はい…」

小さな返事だった。

(重衡様は私の夫である前に、平家の武士。戦(イクサ)に赴くことは当たり前なのに…)

行かないで、と言ってしまいそうになる。

覚悟が足りぬ己の心。




ふと、重衡が口を開いた。

「…昔から…戦に赴く者には、三つの心得があるのです。まず家を忘れ、次に妻子を忘れ、そして我が身を忘れて敵と戦うこと。…しかし私は、我が身は忘れても家や妻のことは忘れられないでしょう」

「重衡様…」

「私は戦など嫌いです。武芸ができぬためではなく…心が、苦しくなりますから…」

切なげに顔を俯かせる重衡に、輔子はそっと抱き着いた。


「輔子…私の愛しき蝶よ。今宵は私の肩に留まって下さるのですか?」