うさぎの香りを胸一杯吸い込んで惚けた景時の脳に、夢見るような優しい囁きが響く。


「鬼を生み出せるほどの闇を抱えていながら、同時に己の闇に抗い、打ち克つほどの光を併せ持つ。

人とは、かくも美しきものであったな。」


「ぅ…」


うさぎの腕の中の小鞠が身じろいだ。

眉を少し寄せて薄く開けた瞼から覗く瞳は丸く、肌も髪も、元の愛らしい小鞠だ。
足首に絡みつけてあったと思われるうさぎの髪と呪符も、跡形もなく消え失せている。


「小鞠ちゃん? 大丈夫?
もう全部終わったよ。」

身を離した景時が優しく声をかけたが、小鞠はそちらをチラリとも見なかった。

もう鬼であることを隠そうともしないうさぎの姿を食い入るように見つめ、視線を逸らさない。