なんてカッコ良く心の中で誓ったものの、

足は震えるし冷や汗は流れてくるし

マンションの屋上に立ってもうすでに3時間は経っている。



今、この握っている柵を離せば

冷たい風に煽られきっと僕は地面にまっさかさまだ。


そう。頭では分かってる。

分かっているがこの手を離せない。


僕のこういうところが、

僕はキライだ。


柵を握ったまま何度目か分からないが

下をそっと覗きこむ。



「…やめたほうがいいよ」


突然聞こえたその声に心臓が跳ねあがった。

そして離してしまいそうになった左手を慌てて握り、ついでに右手でも柵を握る。



「ここから落ちたらどうなるか分かる?」


年齢は…僕とそう変わらないだろうか。

漆黒の長い髪が印象的だった。



「死ぬんだろ?」


そんなこと、分かってる。

分かった上で、僕は今ここにいる。



「そう。死んじゃうよ。

でもね、きっと痛くない。

落ちてる間に意識失っちゃうから。


それでね、地面とぶつかったら

骨が砕けて、内臓が…「ストップ!!!!!」


思わず彼女の言葉を遮った。

想像しただけで吐き気がする。



「分かった。分かったよ。

死ぬのはやめる。

だからそれ以上怖いことを言うのはやめてくれ」


僕は観念したように柵を越え、安全な場所へと足をつけた。




そして、気づく。

僕は誰かに死ぬことを止めてもらいたかったのかもしれない。


と、いうことに。