平日の正午を過ぎているからだろうか。
ホームに滑り込んできた電車は思いのほか空いていて、メイは安堵(あんど)する。
発車まであと5分ほど停車しているらしい。
ホッと肩の力を抜き、車窓に沿うように設置された座席の真ん中に腰を下ろした。
人が多い電車では痴漢にあいやすいので、出来ることなら込み合う時間には乗車したくない。
“マナさんくらい強かったら、ビクビクしなくて済むのにな……”
痴漢を憎み嫌う分、メイは非力な自分を情けなく思う。
今朝はまだよかった。菜月がそばにいてくれたから。
こんなことなら、リクやショウマを無視して菜月と一緒に帰宅すればよかった……。
メイはミズキの親友·高山マナの武力を思い起こす。
少林寺拳法の稽古を受けているマナは、痴漢にも怯(ひる)まないだろう。
“マナさんは初めから怖いもの知らずって感じだったしなぁ……”
メイはマナやミズキとの初対面を思い出した。
自分のことを気にかけてくれたミズキに「偽善者」という言葉を放ったメイは、ミズキを気遣うマナに厳しいことを言われたのだ。
“あれから一年近く経つんだ……”
懐かしく思っていると、メイの脳内映像を反映したかのように、マナとミズキが同じ車両に乗り混んできた。
なんという偶然。ではなく、彼女達の大学もこの駅から近いから当然だ。


