幸せまでの距離


メイの心はショウマの言葉で一瞬にして荒らされたが、リク達から離れるごとに冷静さを取り戻し、駅に着く頃には鼓動も落ち着いていた。

ホームを行き交う人々の姿や話し声が、メイの心をなでる。

どちらかというと人ごみは嫌いなのに、忙(せわ)しなく歩く他人達を見て、今はなぜだか安心した。


――優しいお母さんのおかげで、ワガママ放題に育ったんだね。

初対面のショウマの楽天的な口調と顔が脳裏に浮かび、ヤカンの湯が沸いたようにイライラ感が戻ってくる。

“本当にそうだとしたら、どれだけいいか……。

本物のお嬢様だったら、あんなとこで取り乱したりしないだろ。

あの男、マジうぜえ”

目の前にいないショウマに悪態をつく。

抜けるような青空とは真逆で、メイの気持ちはペンキを塗りたくられた画用紙みたいに重かった。