幸せまでの距離


“お母さん……”

一枚の襖(ふすま)を隔てた向こう側で、一つの男女が性を交えていることなど、その時のメイには見当もつかなかったが、幼いながらも翔子に新しい恋人が出来たということだけは分かった。


翌日から、翔子を抱いたその男はメイと翔子の家に入り浸るようになる。

前日の夜髪を乾かさずに寝たせいか、メイは風邪をひいてしまったようだ。

そんな娘の変化に気付くこともなく、翔子は満面の笑みを浮かべてメイに男を紹介した。

「メイ。この人がいずれあなたの新しいお父さんになるのよ。

ちゃんと挨拶しなさい」

普段見せないような柔らかい表情をした翔子を見て、

「はい……」

熱のせいでふらつく足でふんばりながら、メイはそう返事をした。