幸せまでの距離


「メイ、なるべくあまり遅くならないようにね?

何かあったら連絡ちょうだい。お母さん今日はずっと家にいるから」

菜月はメイに言い聞かせるようにし、先に帰っていった。


菜月の背中が見えなくなった頃、ショウマはメイに向き、

「はじめましての俺が言うのも何だけど、メイちゃんって甘やかされて育ったんだね。

ワガママし放題って感じ。

典型的なお嬢様体質。うらやましいな~」

と、楽天的な声音で言った。

「ちょっ、ショウマ……!」

リクはショウマの口を抑えようとしたが、遅かった。

メイはショウマを睨みつけ、

「は? 何でアンタにそんな事言われなきゃなんないの?」

と、低い声で言い返す。

ショウマは何を考えているのか、面白そうにメイの顔をのぞきこみ、

「思ったままを言ったんだよ。

あんなに優しいお母さんだと、さぞ甘え放題だったんだろなぁって。

あ。それとも、学校でたまったストレスを親にぶつけて発散してるパターン?

メイちゃんみたいな可愛い子が女子の世界で過ごすのは大変だもんね。

メイちゃんに争う気はなくても、ケンカ吹っかけられちゃったりとか。心当たりあるんじゃない?」

ショウマはメイの過去や家庭の事情を知らないし、リクもショウマにそこまで話す気はない。

メイのことを知らないショウマが、メイと菜月のやり取りを見て、メイの言動を「子供じみたワガママ」と受け取るのは当然かもしれない。

しかしメイにとってショウマの見方は心外であり、腹立しい事この上なかった。

「アンタは幸せな人生を送ってきたんだね。だから人の表面だけ見て全てを決めつけることができるんだ。

そうやって他人のアラ探しするしか楽しみがないの?

……残念なヤツ」

リクが止める間はない。

メイはショウマに向かって、吐き捨てるようにそう言った。