ノートを閉じ、メイは目をつむる。

今まで、様々な人に優しさをもらい、こ こまで生きてこられた。

苦しいことや悲しいこと、腹の立つこと が多かった人生だけれど。


苦しんだ遠い過去。

いらつきで流した涙。

愛された記憶。

別れの悲しみ。

それら全てを心の栄養にして、人に感謝 や愛情を示せる大人になってみせる。

世の中には、理不尽や傲慢が擬人化した ような人間も存在する。

けれど、善人と悪人なんていう明確な区 分けなど無くて、誰もが、自分の中に悪 と善を持っている。

みんな、自分の内面を調整しつつ、日々 を過ごしている。

“だからこそ、人に流されない自分の意 思を持つことが大事なんだ”

他人や環境は変えられない。

自分の精神を高め続ける。それこそが、 幸せへの最短距離。


メイの目標は定まった。

もう、揺るがない。

人に惑わされず、過去に縛られず、他者 を思いやりながら、日々を慈しみなが ら、生きていく。


「教えてくれて、ありがとう」

これまで出会った全ての人へ。

支えてくれた友達や家族。

猫との出会い。

笹原教授の教え。

リクとの恋。

結ばれた数々の縁。


この世に生まれて19年目の夏。

メイは、ひとり静かに、幸せまでの距離 が縮むのを感じた。











【完】