「泣かないって決めた…?

リクの言うことは時々難しくて、私には 分からない」

メイは涙まじりの声で言った。

「でも、充分伝わってきたよ。リクの 心」

「そっか。良かった……」

リクは再び、メイの背中にある傷痕を撫 でた。そして、思った。

“メイの心から暗いものが無くなるまで には、まだまだ時間がかかると思う。も しかしたら、一生消えないかもしれな い。

それで、いいんだ。

それが、俺の好きになったありのままの メイなんだから”


リクはさらに、メイを抱きしめた。

もっと近づきたいたい。その一心で。

愛情で彼女の全てを包み込むのをイメー ジして。

「メイは、まだ気付いてないんだろう な。俺が、メイをメイとして見てきたっ てこと」

「え?」

「昔、メイが海に行きたいって言ってた ことも、クリスマスブーツを大切にして たことも、記憶に強く残ってる。

しゃぼん玉を吹く時の、寂しそうでしな やかな横顔も……。

メイと過ごした時のこと、一言では言い 表せないくらい、一瞬一瞬を、鮮明に覚 えてる」

「うん。私に関心を持ってくれるのはリ クだけだった。

今さらだけど……。ありがとう。


でも、本当に、私でいいの?

女としての役目を果たせないのに……」

「メイがいいの!」

メイの瞳を愛しげに見つめ、リクは言葉 を継いだ。

「世の中とか世間一般で、男女の関係は こうじゃなきゃ!みたいな先入観はいっ ぱいあるけど、人は人。

妊娠してもらいたいとか体の関係になり たいと思ってメイと付き合ってるわけ じゃない。

俺達だけの幸せを、やっと見つけたん だ。

ゆっくり大事に、二人で守っていこ う?」

「……リクはやっぱり変わってる」

「へへっ。松本リクは、こういう人間な んだ」

リクは、誇らしげに満面の笑みを見せ た。