幸せまでの距離


今井夫妻が帰った後、メイはひとり、 シェルの墓の前に座り込む。

カウンセリングを重ね、だいぶ心の傷を 克服した。とはいえ、いまだに、リクと 体を重ねたいとは思えないでいる。

「こればかりはどうしようもないよね。 男の性欲は汚くて勝手なものだって体験 をさせられたんだからさ……」

他人事のようにつぶやきつつ、マユミの ことをうらやましく思った。

「マユミさんにはマユミさんの人生が あって、その中で智弘と出会って、今の 生活を送ってる。

私とは違うものを見てきた人なんだよ な……」

マユミの妊娠体験を通して、メイは感じ たことがある。

女性器を持つことのよろこび。

女性であることに不快感しかなかったメ イにとって、意外な感情だった。

女性に生まれたことを少しだけ誇りに思 うと同時に、生理のこない自分の体は異 質なのだと思い知らされた。

マユミのお腹をさわった時に流れた涙 は、よろこびと悲しみによるものだった のかもしれない――。


「シェル。お前は、あの子達を産んだ 時、どんな気持ちだった?」

シェルの墓に、ささやきかける。

「他人の家に匿(かくま)ってまで、助 けたんだ。大切だったんだね、あの子達 のこと。


女性って、すごいね。

たくましいよ、みんな……」

清やメグル。カナデ。マユミ。マナ。動 物だけどシェルも。

女性のひたむきさに胸を打たれた瞬間 だった。

そんな女性達を、自分中心な気持ちで傷 つけた男性陣はやはり許せないと、メイ は強く思ったのだった。