幸せまでの距離


ある程度質問が進むと、笹原の口調は、 友人相手のようにくだけたものに変わっ ていた。

笹原は、相談者の口調や雰囲気に合わせ てカウンセリングでの言葉遣いを変える ようにしている。相談者に心を開かせる 効果もあるからだ。

笹原はメイに尋ねた。

「メイさんは、自分のことが好き?」

「……あんまり」

「あまり好きではないんだね」

「うん」

「どうして、自分のことがあまり好きで はないの?」

ためらいを見せると、メイは口をつぐみ 考え込んだ。

なぜ、自分のことが嫌いなのだろう。改 めて訊かれると、答えに詰まる。

「……今まで関わったヤツらに、よく嫌 われてきたから」

ようやく、メイはそう返した。間違って はいない。事実だ。

しかし、メイにとって予想外な質問は、 まだ続いた。

「今まで出会ってきた人に嫌われてきた から、自分のことが嫌いなんだ。

それは、『出会ってきた人全員』に当て はまるかい?

メイさんは、これまで出会ってきた人全 員に嫌われていたの?」

「ううん。そうじゃない人もいる……」

メイは、ミズキやマナ、リク、メグルや カナデの存在を思い出した。

「そうなんだ。メイさんのことを好意的 に見てくれる人がいるんだね。

その人達に好かれている自分のことは、 好きじゃないの?」

「好きじゃない」

メイは淡々と言った。

「理由はないけど、自分を好きになれな い。

他人に嫌われると何かとめんどくさいけ ど、好かれるよりもしっくりくる。

好かれると戸惑う。

ほめられたら、嬉しいけど反応に困る。

他人が何考えてるかなんて、表面から じゃ見えないし。

好かれてるとしても、私が自分を好きに なるかどうかは別問題」

「そっか。そうだね。人の考えなんて、 表面を見るだけでは分からないよね。

口に出ている言葉がその人の本心だとは 限らない。嫌われる方が安心する。

そう思うような出来事を、メイさんはた くさん経験してきたんだね」

「……」

「自分を好きになれないことを、どう思 う?」

「……」

メイは再び、下を向いて考えた。