幸せまでの距離


カウンセリングに乗り気でない人でも、 そうした何気ない質問に答えているうち に、自ら、訊かれてもいないことを話し 始める場合がある。

答えているうちに、自分は何に傷ついて きたのかを知り、それを口にしたくなる のだ。

また、重症になるまでトラウマを放置し てきた人だと、自分の精神が弱っている 理由すら思い出せないことがある。それ は、どうにもならない状況を前に、悩み を悩みとして受け止めず、心の底に抑圧 してきたからだと考えられている。

そうして抑圧された内面は、こうした何 気ない質問によって引き出される。

抑圧された気持ちを口にすることで、カ ウンセリングに訪れた人は楽になる。メ イの場合、前向きな気持ちでカウンセリ ングに臨(のぞ)んでいるので、質問に よって気持ちを引き出されるといった感 じではなかった。

日頃からミズキに話を聞いてもらってい る分、以前に比べ感情が解放されている といってもいい。

なので、メイにとっては、笹原の質問に 答える行為は、自分自身を客観的に、冷 静に見るための場だと言える。

自分が何を考え、何を望んでいるのかを 知ることで、心を癒す手助けになる。


笹原の目的もまさにそれだった。

メイの性格を知り、彼女が生きていく上 で妨(さまた)げになるような思い出を 知ることで、恐怖心を薄れさせ、今より 楽に生きることができるようにする。