「非常に言いにくいことだけど、前もっ て話しておかなければならないね。
メイさんの家族であり、将来、臨床心理 士になることを考えている星崎さんに は……」
「はい。お願いします……」
笹原の改まった態度に、ミズキは呼吸を 止めて笹原をまっすぐ見つめた。
「授業中などに、どこかで聞いて星崎さ んも知っているかもしれないけど、虐待 被害を受けた児童の心は複雑でね……。 骨で例えるなら、全身の骨という骨が砕 けてしまったかのように、心には傷があ る。
メイさんもきっとそうで、今は表に表れ ていないけど、心の中では今の暮らしを 否定していると考えられる。それが、ど の程度なのかは、本人と話してみないと 分からない。
一般的な見方をすれば、メイさんはかつ ての環境より恵まれた状況の中にいる。 何も問題はない。
では、なぜ、メイさんは今の暮らしを否 定しているのだろうか?
答えはシンプルでね、『ひどい扱いを受 けることに慣れているから、大切にされ ることに慣れていないから』。
本人がどこまで自覚しているかは分から ないし、中には、トラウマを乗り越え健 全な社会生活を送る虐待被害者もいる。 そうやって良い方向に行けた人は、幼い 頃に光となるもの……世の中の良いとこ ろを、何かしらの形で見ることができた からつらいことがあっても前向きさを失 わずに済んだ、と、考えられる」


