幸せまでの距離


菜月の言葉を胸に、ミズキは余裕を持っ て大学に向かった。

授業までにはまだ時間がある。その前 に、笹原の研究室に足を運ばなくてはな らないことになっている。

明日はついに、待ちに待った、メイのカ ウンセリングをしてもらえる最初の日。

ちょうど、メイも学校が休みだし、笹原 の予定も空いている。


さきほど菜月と話したことを含め、本日 ミズキは、笹原と最終的な打ち合わせを することになった。

研究室は、普段通りこざっぱりとしてお り、メイの心身を思いざわつくミズキの 心をいくらか落ち着かせてくれた。


「……そうだね。お母様が心配されるの も、わかるよ」

ミズキの話をひととおり聞いた後、笹原 は難しい顔で言った。

「身内の星崎さんには言いづらいことな んだけど……。

幼い頃に性的暴行を受けた場合、様々な 要因で月経がこなくなる女性がいるんだ よ」

ミズキは、笹原の発言に驚きを隠せな かった。なぜなら、メイが性的虐待を受 けていたことは、笹原にも話していない からである。

思いもよらない形でリクに知られること になったが、同じ女性。メイの気持ちを 考えたら、安易に口外してはいけない し、そういうデリケートな問題は他人の 耳に入れるべきではないとミズキは考え ている。

たとえ、笹原のことを尊敬していても、 だ。

「先生、あの……」

ミズキはそれ以上、言葉が出なかった。

彼女の心情を察しつつ、笹原は悲しげに こう付け足す。

「大学時代の親友が、精神科に勤めてい てね。

彼は、患者さんの名前を伏せて、病状別 に精神疾患について解説した本を出版し たことがあるんだよ。虐待や犯罪の深刻 さを、世の中に訴えるために……。

数年前の話だよ。星崎さんが中学生くら いの時のことだったかな」

当時、その本を読んだ、と、笹原は言っ た。

「心理学は、まだまだ若い学問でね、未 知の部分が多い。そういう意味でも、人 の心を知りたいし、読ませてもらったん だ。

本を読んだ世間の人からも、反響はあっ て。だけど、悲しいことに、世の中から 虐待や犯罪は無くならないね……」

メイの身体について解説する前にあえて ワンクッション置いたのだろうか、笹原 はそんな話を挟んだ。