カナデの祖父は県内県外問わずいくつかのマンションを経営·管理しており、その息子であるカナデの父親も、祖父の恩恵を受けた資産家である。
カナデも恵まれた環境で暮らしていた。
トウマとの関わりで自分のこづかいが減ることに何の疑問も感じず、不満を持つこともなく。
むしろ、今まで恵まれた環境にいたせいで、満足を超え退屈さを感じていたカナデにとって、金銭を払ってトウマの夢を応援するという行為は、リアルなゲームのようでもあった。
だが、それも長くは続かなかった。
カナデの貯金通帳から一度に50万近くの大金が下ろされていることを知った彼女の両親はさすがに怪しみ、カナデが誰かに貢(みつ)いでいることを感づいてしまったのである。
カナデは自分で管理していた通帳を両親に取り上げられ、金の使い道を質問されても、シラを切り通した。
“親だからって、私から唯一の楽しみを奪わないで!”
自由に使えると思っていた通帳も取り上げられてしまったカナデは、毎晩パソコンに向かい、簡単に金が稼げる方法をネットで探した。
そこでやっと見つけ出したアルバイトを、現在も続けている。
高級デートクラブで男性会員と知り合い、その相手と遊ぶ。
遊ぶというのは、文字通りカラオケや食事だけで済む場合もあるが、ホテルで男性の性欲を満たしてあげ、その対価を得る日もある。
警察の取り締まりを受けたことにより、昔に比べるとそういう類の店数は激減したが、完全に無くなったわけではない。
素知らぬ顔で未成年女性を働かせ、客の男性相手に売春行為をさせるための仲介場を設ける大人達。
体を張ってトウマの夢を追う自分の行いを応援してほしくて、カナデは高校で1番仲の良かった友達にそのことを打ち明けた。
だが、カナデの期待とは裏腹に、友達はカナデがデートクラブでバイトすることに加え、トウマと交際することまでをも反対し、ついにはカナデと縁を切ると言い、離れていった。
カナデにとってトウマの夢を追うことは生きがいであり、中途半端な悪ふざけで中年男の性交渉の相手をしているわけではない。
彼女はどこまでも真剣だった。


