「あんたに言われなくても、わかって る」
メグルの手をゆっくり離し、カナデは 言った。
「トウマ以上のイイ男見つけて私に惚れ させるから、もういい。
でも、トウマとのこと、後悔はしてない から」
それは、恋敵のメグルに対する強がりな のか、それとも、本音なのか。言ったカ ナデ本人にも分からなかった。
ただ、メグルはそれ以上何も言えず、カ ナデが病室に戻るのを黙って見ているこ としかできなかった。
メグルを中庭に置いて、ひとり病室に 戻ったカナデは、窓枠から身を乗りだ し、空を眺めた。
自殺を図ったことや、トウマとの別れ。 全てが悪い夢だったかのように、いつも 通り、穏やかに青い空が広がっている。
視線を外し中庭を見ると、もう帰宅した のだろう、メグルの姿はなく、小学生ほ どの女子児童が二人、車椅子の女性を背 後から押している。足をケガしている女 性は彼女達の母親だろうか。
楽しそうに車椅子を押す児童を見て、カ ナデは思い出した。
昔、アイドル歌手を目指し、毎日友達と 一緒にダンスや歌の練習を楽しんでいた ことを。そして、専門学校の入学当初、 メイに言われた言葉も……。
“私は、生半可な気持ちでトウマの夢を 応援してたわけじゃない…。そう思って メイちゃんに反発したこともあったけ ど、本当にそうだった…?”
退屈な日常の中。トウマの夢追い生活が スリリングに見え、面白かったのも確 か。
トウマのためと言いながら、結局は、自 分が楽しむために投資していたようなも のだった。
“もし、歌手になる夢が叶ってたら、私 も枕営業をしてたかもしんない。
最初は嫌でも、そのうちそういう世界に 染まっていって……”
カナデはふと、そんなことを考えた。


