幸せまでの距離


ロビーには、テレビとソファーがある。 高齢の入院患者が何人か集まり、 テレビ の映像を見てなにやら騒いでいた。

カナデはそちらに足を向け、人気の少な い隅で、つられるようにテレビを見た。 思わず息をのむ。

「トウマ…!」

来週から始まる夜の連続ドラマの、予告 を兼ねたダイジェスト映像が流れてい る。

その中に、よく知るトウマが映ってい た。青年実業家の役を演じている。

カナデは衝撃を受けた。なぜら、トウマ の顔つきが、素人時代とまったく違って いたからだ。

叶わない夢に投げやりになっていた頃 は、良くも悪くもストレスのない緩んだ 顔をしていたのに、今は、見違えるほど 引き締まっている。

もう、それが彼の代名詞であるかのよう に、《遅咲きの名俳優! 今後の活躍に 期待!!》と、テロップが映し出されて いた。

カナデより先にテレビを見ていた患者達 が、色めきたっている。

「これが、俗に言う『イケメン』よぉ ~」

「ワシの若い頃は、こいつよりかっこよ かったもんだ!」

「もうすぐ28になるんですって。今まで 有名にならなかったのが不思議なくらい ねぇ。

演技うまいじゃない、この子」

皆、それぞれにトウマの感想を告げる。

“これが、トウマの望んだ世界……”

カナデは、改めて知った。

トウマとは、とっくの昔に別々の道を歩 いていたのかもしれない、と……。

誰もが叶えられるわけではない大きな 夢。それを掴んだトウマを、やはり、尊 敬してしまう。

別れたとはいえ、しばらくの間は、彼へ の情を捨てられそうにない。