幸せまでの距離


大人になりたくない。
汚い人間になりたくない。

そう願うゆえに偏見の目で大人を見る一方で、メイは、自分も誰かを救える存在になりたいと感じた。

生駒カナデと今後どのような関係になれるかは分からないし、正直人間と深く付き合える自信はないが。


メイはさきほどカナデが放った質問「穂積翔子が夢を諦めた理由や、現在どう過ごしているか」について、簡単に答えた。

「穂積翔子は夢を捨てたんじゃない。

私を……赤ん坊を妊娠したせいで、しぶしぶ諦めざるを得なかったんだ。

夢を諦めた後のあの人の人生は、目茶苦茶でしかなかったよ。

……アンタも彼氏の夢を応援するのなら、生半可な気持ちで突っ込むのだけはやめな。

彼氏だけじゃない。いつかアンタも苦労するよ」

「……」

メイのセリフにショックを隠せず、カナデは立ちっぱなしのままメイの背中を見送った。

メイがどういう人生をたどってきたのかは知らないが、戸籍を見ただけである程度のことは想像できる。

メイから放たれる他人を寄せつけないオーラは、カナデだけではなく、それ以外の人達も感じ取っているだろう。


メイの発言には説得力と実感がこもっており、普通ならそれはありがたく貴重な意見なのかもしれないが、メイのストレートな答えはカナデの弱い部分を鋭く貫いただけだった。

フエルトに刺さる複数の針みたいに……。