幸せまでの距離


「アンタはアイツの言葉を真に受けてる みたいだけど、アイツには今の家庭があ る。

私を引き取る気なんて無いよ。

見てて分からない?」

「そうかな…?

たしかに、今は今で家族がいるけど、お じさんにとってメイは実の娘じゃ ん……。

金銭的な援助だけじゃなく、連絡を取り 合いたいっていうのも本音なんじゃない かなって思ったんだけど……」

メイは窓の外に目を向けた。

高層にある部屋の窓にはカーテンやブラ インドもなく、全面に広がる夜景が視界 いっぱいに見渡せた。

「私を引き取りたいんだったら、とっく の昔にそうしてるって」

メイは冷静に、保の言動を分析してい た。

「あの人は、今の家族を守るので精一杯 のはずだよ。

まだまだ手のかかる息子がいるわけだ し、『次こそ失敗はしない』って、目の 前の結婚生活を維持するのに必死だよ。

そんなところに私が突然やってきたか ら、罪悪感も手伝って、あんなこと口 走ったんじゃない?

私にそんな気がないって分かってたか ら、一緒に住むだなんて変なこと言えた んだよ。

そうやって父親のフリしなきゃ、どうに もならなかったんでしょ」

「そう、なのかな……?」

「決まってる。

言ったでしょ? 私は男の涙を信じな い。泣きながら語られる言葉も同じく ね。

あの人は、私を見て一時的に感情が高 ぶった。それに引きずられて父親ぶって みただけ。

とことん残念なヤツだね。

あんなヤツと血が繋がってんだと思う と、情けない」