幸せまでの距離


さきほどまでと違い、メイは今、冷静に 思考していた。

それは、ミズキや子猫の声を聞いたおか げ。


これまでメイは、物事にこだわらないフ リをしながら、血のつながった両親に執 念を持って生きていた。

翔子や保を呪うことで、自分の存在を確 認するしかなかった。

“でも、もう、そんな必要はない。

今までは、『血縁者』って言葉にとらわ れ過ぎてたかもしれない。

周りがそうだったから。

努力すれば、自分も、親に愛される子供 になれるかもって期待を捨てられなかっ た。


でも、もう、いらない。

今度こそ、親を捨てる。

私には今、家族がいる。

血はつながってないけど、私を育ててく れる両親と、常に気にかけてくれる姉が いるんだから…!”

この瞬間、やっと、血縁者に憧れるメイ の気持ちは消えた。

今の家族を大事に思う。

その気持ちさえ忘れなければ、こわいも のなどない。

“居場所はある。

もう、前の私じゃない”

ナイフを振り回して保や自分を傷つけた ら、家族までもがその痛みを背負うこと になる。

そんなことにだけは、なってはならな い。


いま自分は、何を望んでいるのか。


いつか、親孝行、家族孝行がしたい。

自分のように、性犯罪で苦しむ女性を減 らしたい。

願望を実現する、その前に、自分の心に けじめを――。

過去を綺麗に流して、前に進もう。

メイは、寸前のところで攻撃的な思考を 胸の内に抑え込んだのだった。