ミズキのおかげで、熱くなりかけていた メイの頭は、いったん冷えた。
彼女は考える。
今まで、自分は何に執着してきたのだろ う。
保に憎しみを感じるほど、何に傷ついて きたのだろう。
ナイフを手放し、バッグの中から手を出 した。
かわいた夜風が、汗ばんだ手のひらに当 たって心地いい。
駅に出入りする人々。
メイ達と同世代の学生達や社会人だけで はなく、幼い子供を連れた夫婦も多く通 り過ぎる場所。
“……そっか。昔の私は、ああいうのに 憧れてたんだっけ”
父親と母親の間に立つ子供。
両親に手をつながれて、楽しげに会話す る幼い笑顔。
メイはかつて、そんな家庭に憧れてい た。
現実を見たくないので、いつの日か、理 想も希望も捨てて生きてきた。
呼吸をするだけで精一杯だったあの頃。
“そう……。私が手に入れられなかった 「あたたかい家族」。
保は今、どういうわけか、それを持って る。
私の大切なものを奪いながら、アイツは 幸せになってる。
だから私は、アイツが許せないんだ”
ここに生きる、ひとりの人間として。
傷の存在を、メイはいま、大きく感じて いる。
心を踏みにじられた悔しさ。
泣き寝入りするしかなかった弱い立場。
それに付け込んだ大人の狡(ずる)さ。


