幸せまでの距離


その体勢のまま、メイは半時を過ごし た。

バッグの中でにぎりしめたままのナイフ の柄は、汗でじっとり濡れている。

リクと保の話し合いは、意外と長く続い ているらしい。

とはいえ、二人の会話の内容より、メイ は、自分の中に渦巻く攻撃性にばかり意 識がいっていた。

将来を前向きに考えると決めたはずなの に、なぜこうなってしまう?

どうしたら、この怒りは治まるのだろう か。


ケータイが振動し、メイは弾かれるよう に背を震わせた。

ミズキのケータイから着信が来ている。

気分的に無視しようと思ったが、長引く コールに、メイはやはり電話に出ること にした。

「……はい」

『もう、そっちに着いた頃かと思って』

「うん、さっき着いた」

短く答える。メイは、何を話せばいいの か分からず黙り込んだ。

まさか、ミズキから電話がかかってくる なんて……。

メイの戸惑いを知ってか知らずか、電話 の向こうからは子猫達の鳴き声が聞こえ てきた。

柔らかくて、あたたかい、最近ようやく 耳に慣れてきた動物独特の声。

いまじかに触っているみたいに、猫達の ぬくもりを鮮明に思い出す。

メイの体は何かに包まれたかのようにな る。

憎しみにより遠ざかっていた日常と自分 の存在を取り戻し、しっかり肌に感じ た。

『メイを応援してくれてるみたいで しょ?』

電話口で、ミズキが言った。

『私達から、メイにエールだよ。

待ってる。

でも、無理しないでね』

「大丈夫…!」

メイは電話を切った。

多くのことを話したわけではないのに、 ミズキと猫達に救われたような気がし た。