幸せまでの距離


目的の教室は本館にある。

雰囲気は違えど、白を貴重とした室内は高校の時に過ごしたクラスの教室とたいして変わらない。

イスとセットになった机の数もそのまま。

入学式にも、予想していたほど人は参加しておらず、空席が目立っていた。

単に入学式をサボった生徒が多いという理由ではしっくりこないほど、あれは空き過ぎだった。


本館は去年の夏に改装工事が行われたばかりらしい。

成り行きまかせにそこへ足を踏み入れたメイの鼻には、リフォーム後特有の匂いが漂ってきた。

横にいるカナデは綺麗な教室を見て感激し、

「やっぱりここに来て正解だった!」

と、専門学校選びに苦労していた高校時代の思い出を語る。

メイはそれを適度に聞き流し、カナデに見せた戸籍や住民票を教卓前にいる担当の教員に渡して学生証を受け取った。

カナデもあわてて同じようにし、さっさと教室を出て行くメイを引きとめた。

学生証をもらったら各自帰宅していいと入学式の締めに伝えられていたので、メイはため息をつき、

「もう帰りたいんだけど……」

「さっきは初対面の私なんかに戸籍見せてくれてありがとう」

個人情報保護という言葉を見聞きしない日がない現代。

一般の人々にとっては、初対面のカナデに戸籍を見せるというメイの行動は非常識に映るだろう。