幸せまでの距離


カナデはメイと視線を合わせた。

「芸能界に入ったことなんてないから、 本当のところはどうか分からない。

女優や歌手……。みんながみんな、性と 引き換えに仕事を取ってるかどうか、確 かめてなんかないから。

実力で成り上がってる人も、少数ながら いるのかもしれない。

でも、私達が思ってるような世界じゃな かった。

体の関係の有無で配役を決めちゃうよう な世界。

一般的な暮らしをする私達とは違う常識 が、芸能界には存在する。


高校の時スカウトされた友達も、事務所 の人にこう言われたんだって。

『芸を売るコは、時代や流行りによって 観客のニーズに応えられる柔軟性があれ ばそれでいい。

そんなコは、一般人にゴロゴロ転がって る。

そこそこ可愛くて《キャラ作り》ができ るコなんて、腐るほどいる。

性的にお偉いさんを満足させたコが勝ち 上る世界だよ。

君の代わりは、はいて捨てるほどいるか ら』」

「……普通の神経じゃやっていけない世 界だとは思ってたけど、腐った人間ばっ かだな」

メイは舌打ちする。

女性を食い物にする人間が存在するの は、間違いない。

不愉快なあまり、鳥肌が立った。

「……トウマも、あっち側の人間になっ ちゃったんだよ。

私には手の届かなかった、芸能界の人 に……」

包帯を巻かれた手首を宙にやり、カナデ は力無くつぶやいた。

「私は、何のために生きてたんだ ろ……。

昔、歌手になりたかったってこと、今ま で忘れてた。

それくらい、トウマの夢が、私のすべて だった……。

体を売っても、トウマが抱いてくれたか ら、私は私でいられた。なのに……」