さきほど浴室で見た光景が夢だったかの ように、カナデは穏やかな表情で眠って いる。
メイはベッド脇のイスに座る。
気配に気付いたのか、カナデは深いよう で浅い眠りから目覚め、焦点の合わない 視線をメイに向けた。
宇宙を連想してしまうくらい、カナデの 目には何も映っていないように暗い。
メイは黙って、カナデが口を開くのを 待っていた。
カナデの目から孤独が伝わってくる。
それは、はるか遠い昔、メイが日常的に 抱いていた色そのものだった。
カナデは仰向けの体勢で自分の手首を上 に掲げ、包帯が巻かれているのを確認す るように見つめ、静かに腕を下ろした。
「小4の時、仲良かったクラスの女子 と、『歌手になりたいねー』って話して たことがあったの」
ベッドの中、カナデは天井を見ながら過 去を語る。
「昔から、歌ったり踊ったりするのが好 きだった。
何でもそうだけど、習い事始めるなら早 い方がいいって言うじゃん?
小学生で芸能界に入ったとしても、歌手 デビューするには遅すぎる……。
芸能界で活躍してる有名なコはみんな、 幼い時からレッスン受けてきた特別な人 ばかりなんだもん。
私と友達は焦って、すぐ、親に相談する ことにしたの。
今すぐ劇団に入れさせてほしい、歌の レッスンがしたい、歌手になりたいか ら、って……」
「意外。そんな夢があったんだ」
メイは短く返す。
「うん。好きなことで活躍できた方が楽 しいし。
体育や音楽の授業で、ダンスや歌をほめ られることが多かったの。
私には特別な才能があるに違いない…っ て、自信があった。
……でも、この通り、歌手にはなれな かった」


