幸せまでの距離


舞台俳優や女優に憧れを抱きその職業に就きたいと願う人は、意外に多い。

テレビドラマで活躍する芸能人やアイドルよりも堅実で、演じることが好きな人にはもってこいの職業だ。

カナデの彼氏も、その夢を追う者らしく、有数の演劇事務所に所属しているが、たいていの人間は役者として売れずに、そのうち夢を諦める。

スポットライトを浴びるのは才能を持った一部の役者だけであり、それ以外の夢追い人はアルバイトで生計を立てながら演技の練習場に通う。

カナデの彼氏も例外ではないだろう。

「無駄な努力してんだね、アンタの彼氏は。

役者なんて、さっさと諦めたらいいのに」

カナデがメイの素性を知らないとはいえ、翔子の娘だった自分がそう言うのはイヤミにしかならないと分かっていたが、舞台俳優への道が難しいということをメイはよく知っていた。

母親がその道を捨てたつらさや、夢にかけた努力。

メイは幼少の頃から吐き気がするほどそれを聞かされて育った。

演劇の世界で生き残るために、翔子がどれだけ心血を注いできたのかを……。

娘の立場を盾に、そういった翔子の過去には無理解を貫きたかったけれど、翔子の心残りを客観的に見られないほど、メイは幼くもない。