幸せまでの距離



その頃、カナデはトウマのアパート前に いた。

目の前には住宅街が広がっている。

ここに来るのは、メイを連れてトウマの お祝いをした日以来である。


あれ以来、トウマからの連絡は何の前触 れもなく、パッタリ途絶えてしまった。

不安にかられたカナデは、こうしてトウ マのアパートに来てみたのだが、様子が おかしい。

彼の住む部屋の鍵は開いたままで、部屋 の中には誰もいなかった。

カゴの中にたまった洗濯物。

ベッドの上で乱れた掛け布団。

マグカップに入ったままの、冷めたブ ラックコーヒー。

生活感漂う室内はそのままに、トウマの 姿だけが、なかった。


また、劇団員の先輩と遊び歩いているの だろうか?

今度の舞台に関する取材で忙しいのだろ うか?

にしても、メールの一通くらい送れるは ず。

トウマと連絡がつかないことを理由に、 カナデは昨夜から彼のアパートに入り、 部屋の中でトウマを待ち伏せていた。

その間、何度か彼に電話をかけたため、 充電はなくなり、電源は落ちてしまっ た。


トウマと連絡がつかないこと……。

先日、なにげなくメイに話してみたら、 「多忙なせいでは?」と返ってきたが、 カナデはどうしても、それだけが原因と は思えなかった。


自分に隠れて、今もこっそりメグルと 会っているのでは……?

カナデの疑いは、日に日に膨らんでい く。

トウマの家には自分用の充電器を置いて いるのに、それを使ってケータイの充電 をするのを忘れてしまうくらい、トウマ の行方が気になった。

“探すまで、帰らない……!”

なぜ、彼と連絡が取れないのだろう?

カナデは焦っていた。

放っておいても、トウマはいずれ、メ ディアに顔を出す機会が増えるだろう。

そうすれば、いま所属している劇団を辞 めて芸能事務所に入り、本格的に芸能活 動を始めるだろう。

自由な時間も限られてしまう。

最悪、恋人とのつながりは絶たれてしま うかもしれない。

そうなる前に、彼と話がしたい……!


カナデは、トウマの所属する劇団に向 かった。

今日から行われている専門学校でのイベ ント。

思い出しはしたが、それを蹴ってでも、 トウマに会いたかった。