幸せまでの距離


「うん……。連絡してみる」

メイはいったん更衣室に戻り、ロッカー にしまっておいたバックに手を突っ込ん だ。

ケータイを取り出し、何度かカナデに電 話をかけてみたが、つながらない。

無感情なアナウンスが流れるだけ。

この声を信じるならば、カナデは電源を 切っているか、電波の届かない場所にい る、ということになる。

メールマメで連絡を欠かさないカナデ が、そんなことをするだろうか……?

アナウンスの声を耳に、メイはざらつき を感じた。


カナデは、これまでに何度か、メイに メールを送ってきたことがある。

高校時代、周りのようにケータイを持っ たことのないメイは、こうしてケータイ を持つようになった今も、特別ケータイ に執着心が湧くことはなかった。

よって、人からのメールを見ずに放置す ることがよくある。

すると、カナデは必ず、

「メール読んでくれたー?

友達なのに、メイちゃん冷たくなー い?」

と、膨れっ面になっていた。

“無駄にマメ過ぎるカナデが、自分から 電源切ったりする?そんなわけ……”

「メイちゃん、先輩来たよ!

早く早く!」

メイの思考を中断したのは、同じグルー プの女子メンバーだった。


カナデから連絡が来たらすぐに気付ける よう、メイはこっそり、コックコートの 内ポケットにケータイをしのばせた。

厨房にケータイを持ち込むのは禁止され ている。

もし見つかったら、途中でも退場させら れてしまう。

それくらい、今回のイベントはメイ達に とって大切なものだった。

しかし、だからこそ、カナデが来ない現 状に、メイは胸騒ぎを覚えた。

バイブレーション機能に設定したケータ イが、やけに重く感じられた……。