マユミはまっすぐ樋口を見て、冷静に返 した。
「夫婦は、恋愛と違う。
不安もあったけど、私は軽い気持ちで智 弘と結婚したわけじゃない。
一生一緒にいたいと思えたから、婚姻届 に名前を書いたんだよ」
「だとしても、こいつは……!」
興奮する樋口を黙らせたのは、マユミの 指摘だった。
「……樋口くん。
あなた、昔から智弘のことがうらやまし かったんでしょう?」
「は……!? 何でだよ、そんなわ け……!」
「分かるよ。昔からの付き合いだから」
マユミは立ち上がり、樋口のそばに立 つ。
「昔から智弘のことで何かと気を遣って くれたのも、
今、ここでこうなってるのも、
樋口くんにとって、智弘のことが身近な 存在だからこそ、大好きで、うらやまし くて、憎くて、仕方なかったからじゃな い?」
「……」
樋口は黙り込み、それ以上、何も言おう としなかった。
「智弘、帰ろう?
昨日帰ってこなかった罰として、夕食の 手伝い、いろいろやってもらうから ね!」
「ああ。やるよ」
樋口のことを気にしていた今井も、マユ ミにうながされ、ダイニングを出た。
樋口宅を出てしばらく経つと、前を向い たままマユミは言った。
「もう、樋口くんに縛られることない よ。
私達も、いい加減、幸せを望んだってい いと思う。
それを邪魔する権利、誰にもない。
今日、ああいうこと話せて良かった」
「……ああ。でも俺、樋口に追い詰めら れたこと、感謝してる。
マユミに隠すこと、何も無くなったか ら……。
今後のこと、改めて考えよう」
「そうね……!」
樋口の監視や脅迫から逃れ、今井はよう やく、妻とまっすぐ向き合えるように なった。


