幸せまでの距離


マユミの言葉に、今井の気持ちは追いつ かなかった。

「なんでそんなに穏やかでいられるん だ!?

殴ってくれていいのに!

俺は最低なことをしたのに……」

「殴りたいくらい傷ついてるよ」

マユミは冗談ぽく今井をにらむ。

「もし、今聞いたことをあの頃正直に話されてたら、間 違いなく別れてた。

私も、今ほど精神的に余裕がなかった し。

今も、わざわざ口に出さないでほしかっ たと思ってる……」

「うん……」

「知ってたよ。

智弘が、他の女の子と寝たこと。

ヨリ戻してすぐ、智弘のアパートに泊ま りにいったよね。

智弘、私以上に泣いてた。

申し訳なさそうに、何度も謝ってきたよ ね。

赤ちゃんのことだけで謝ってるわけじゃ ないだろうな、って、何となくわかっ た。

ソファーに、覚えのない香水のにおいが 残ってたしね……」

「知ってた!?

なら、どうして……!」

今井は立ち上がり、マユミに詰め寄る。

「だって、確実な証拠なんてなかったも の。

香水は、友達の物かもしれない。

座っただけでも、匂いってつくでしょ う?

隠してるのは智弘の弱さで、優しさでも ある。

自分に、そう言い聞かせてた。


一度別れる前、私は理不尽に智弘を疑っ て、傷つけた。

せっかくヨリを戻せたのに、自分の不用 意な言葉で壊したくなんかなかった」

「マユミ、ごめん……」

「智弘は、一生私を愛するって誓ってく れたでしょ?

入籍した時、一生、私だけを見るって約 束してくれた。

それがウソじゃありませんように…っ て、賭けてたの。

今のところ、私達の気持ちはつながって る。

だったら、問題ないよ」

穏やかにおさまった今井夫妻の空気を壊 したのは、樋口の荒れた声だった。

「……なんでだよ。

離婚するだろ、普通は……!

コイツは他の女とヤッてたんだぜ!?

マユミは悔しくないの!?」