数分後、電話で今井に呼び出されたマユ ミが、樋口宅に現れた。
昨夜、今井は自宅に帰らなかったので、 マユミはひどく心配し、走ってきたほ ど。
彼女は、玄関前でたたずむ男性二人を交 互に見て、戸惑いの表情を浮かべる。
「樋口くん、久しぶり!
智弘。話って、何?
昨日、帰ってこなかったことと関係ある の?
ここじゃなきゃ、ダメなの?」
「うん。一晩中、マユミのこと考えて た。
覚悟決めたから、ここで聞いてほし い……」
「うん……。わかった」
マユミは二人の雰囲気に飲まれた。
全体的に散らかった家屋。
ホコリっぽい廊下に不快感を覚えたマユ ミは、それを顔に出さないようにし、ぎ こちない足取りで廊下を進む。
今井にうながされるまま、彼女はダイニ ングのテーブルについた。
今井の横に、樋口が座る。
マユミは今井と向き合う場所に席を取っ た。
言葉にすると、ものの数分の話だった。
学生時代。
マユミが苦しんでいた時期に、他の女性 と関係を持ったこと。
今井は包み隠さず話す。
彼の声は終始震え、暑くもないのに全身 から汗が出ていた。
無表情を貫く樋口は内心笑い転げ、
“離婚しろ、離婚!”
と、マユミに念を送っていたが、そうは いかなかった。
「そんな話を他人の…樋口君の前でする なんて、何考えてるの?
私、よけいみじめになるじゃない」
マユミの反応は、今井や樋口が想像した ものとは違っていた。
「マユミ。俺は卑怯で自分勝手な男 だ……!
いま話したことを隠して、マユミと結婚 した。
いい顔しながら、本当は裏切ってたん だ……。
離婚されても仕方ないと思ってる……。
樋口にそれを見届けてほしくて、マユミ をここに呼んだんだ」
「そんな目で見ないで」
優しく、しかし冷ややかな物言いで、マ ユミは返した。


