たしかに翔子は、舞台女優をしていた頃、多くの輝かしい功績を世に残した。
メイが幼少の頃、実の父親(翔子の元夫)からわずかに聞いた話では、翔子は人気者ゆえにたびたびマスメディアにも注目されていたそうだ。
翔子の美しい容姿は男性ファンを魅了し、舞台公演に興味のなかった人をもその世界の虜(とりこ)にしていった。
しかし翔子は自分の外見の良さにあぐらをかくことなく、仕事のベースとなる演技力に磨きをかけることを怠(おこた)らなかった。
最初は妬みの感情で翔子を嫌っていた一部の一般女性も、翔子の仕事ぶりを見て、彼女の誇り高い内面に惹かれていくようになる。
穂積翔子が妊娠を理由に舞台女優を辞めて一般大衆の前に姿を現さなくなった現在でも、翔子のファンはいた。
メイはカナデの話から、翔子に関する意外な事実を知ることになる。
カナデはメイが不快な顔をしているのに気付きつつも、なめらかに口を開いた。
「私の彼氏ね、舞台俳優目指してるんだ。
穂積翔子に憧れてその世界に入ったんだって。
ま、穂積翔子とは比べモノにならないくらい売れてないし、脇役すらもらえない時もある、大根役者なんだけどねー」


